「さま~ふぇすた三河安嬢2007」いよいよこの日がやって来た。
名古屋化ハウジングの面々も所長の北浜はもちろん、営業マン全員と事務員の亜希子もスタッフとしてイベントに駆り出されていた。
「そういえば所長、このあいだサンバのダンサーがどうのこうのおっしゃってましたけど、あれなんとかなったんですか?」
亜希子はそれとなく聞いてみた。
「うん、あれはまあ、なんとかなったんだ。なんとかな。」
北浜はなんだかはっきりしないような素振りだったが、亜希子はまた話を蒸し返されると嫌なので、それ以上は追求しなかった。
周りの雰囲気が怪しくなってきたのは、お昼を廻り、いよいよカーニバルパレード開始まで1時間を切ろうか、という時だった。
「至急」ということで、北浜がイベント実行委員会の本部に呼び出され、慌ただしく飛び出していった、と思ったら、戻ってくるなり亜希子に声をかけた。「鈴木君、ちょっと」
亜希子は嫌な予感がした、普段は馴れ馴れしく「アキちゃん」と呼ぶ北浜が、苗字に君付けで呼ぶときは、大概ろくなことは無いのだ。
「実は例のサンバカーニバルの件なんだけど、頼んでおいたはずのフィリピン人ダンサーが集団食中毒で殆ど駄目らしい、いや、それでも何人かは来るみたいなんだけど、人数がまるで足りない。で、こないだの話を蒸し返すようで悪いんだけど、是非、鈴木君にダンサーの代役を頼みたいんだ。どうだろう?なんとか引き受けてもらえないだろうか?」
「ええっ!?その話なら先日お断りしたばかりじゃないですか!なんで私なんです、そんなこと急に言われても困ります!振り付けだって全然頭に入ってないんですよ?」
「鈴木君、今回の件は全く予想外のネガティブサプライズで、我々としても藁にもすがる思いなんだよ、それにイベントの性格上、女の子だったら誰でもってワケにはいかないからね、鈴木君だったら是非、って商店会からの推薦もあるし、なあに踊りのことだったら大丈夫、何人か来ているフィリピン人ダンサーを見ながら上手いこと合わせてもらえばいいから。細かいことはこの際言いっこなしだよ!」
「そんな、衣装合せだってして無いのに!お客さんだってすっごいいっぱい集まって来てますよ!?」
すると、そばで見ていた商店会会長が口を挟んだ。
「え~と、鈴木さん、でしたっけ?私からも何とかお願いします。今年のイベントは見てのとおり近年稀に見るくらいの大盛況です、せっかく集まってくれたお客さんを、ここでがっかりさせる訳にはいかない、いや、仮にもし今回のイベントが失敗するようなことがあれば、新幹線「こだま」しか止まらないこの三河安嬢駅に「こだま」すら止まらなくなり、商店街そのものが存亡の危機に!・・」
亜希子は無茶ぁ言うなあこの人も、と思ったが、ここで北浜が追い討ちをかけるように、
「鈴木君、頼む!私ら決して、亜希子君のでかいオッパイがブルンブルン揺れるのを見たいとか、やらしい意味で言ってるわけじゃないんだ!スタッフとして運営を任されている以上、なんとかうちの会社として出来ることは全て協力してあげたい、ここは鈴木君のカラダ、もといチカラが是非とも必要なんだよ!ほら、このとおりっ!」
北浜、ここで部下の亜希子に向かって土下座。商店会会長も土下座。ライダーダブルキックならぬリーマンダブル土下座だ!大の大人2人にここまでされては亜希子ももう、折れざるを得なかった。
「わ、分かりました、私でお役に立てるんでしたら、何とかがんばってダンサーやってみます・・」
亜希子は強く押されたとは言え、安易に引き受けてしまったことを、すぐにひどく後悔する事になる。
まさか用意された衣装があんなに過激なものだったとは・・・。